北海道のアウトドアプロガイドみちくさ

私がみずき君を推す理由

フォトジャーナリスト 残間正之

 

 

 

カメラとフライロッドを抱えて世界70カ国以上を旅した。カラコルムやアンデスの5千メートル峰も登った。大河アマゾンで古代魚ピラルクーや川の虎ドラドも釣った。そこでひとつ學んだことがある。山登りは登頂に拘りすぎると命が危うくなる。釣りは釣果に拘ると自然界の囁きが聞こえなくなる……と。

 

北海道に移住して9年。ここ数年はGGアミーゴと称する半世紀以上を生き抜いた中高年の野遊び仲間とゆるゆる秘境釣行を楽しんでいる。

本棚から色褪せた釣りの紀行文を取り出し、その頁に記された日高山脈の源流を目指す。半世紀以上前の釣行記である。当然ながらダムや堰堤などで渓流は寸断され、当時の面影は無い。だが、身を切るような流に首まで浸かり、滝を這い登り、尾根を越えると、まだアイヌ民族やヒグマの聖地だった原始の森が迫ってくる。がしかし、中高年にとっては過酷である。

そんな時、頼りになるのが山岳ガイドの佐藤みずき君だ。否、みずき君あっての秘境釣行とも言える。

 

山岳ガイドといえば筋肉隆々、顔は真っ黒で無精髭……なんてイメージである。だが、みずき君は小柄で性格も優しく、正直言って頼りない感じである。ところが、トレッキングシューズの紐を結び、仲間の酒やら食料を詰め込んだ大容量のザックとザイル、そしてハーネスにカラビナなど山の装備を身につけた途端、屈強な山男に変身する。そして何よりガイドに必要不可欠な思いやりと優しさとサービス精神、そして撤退する勇気がある。

 

昨年の夏には北海道南部の「熊戻り渓谷」でイワナ釣りを楽しんだ。メンバーは70歳を越えたテンカラ師、還暦FFレディなど、平均年齢は60歳以上。で、そのリーダーは息子のようなみずき君。老いては子に従い……なんて言うけれど、老いては若者に甘える、これも老獪な野遊び爺の処世術である。

 

2018年4月17日

 

 

残間正之

ロッドとカメラを抱えて世界70カ国以上を旅したフォトジャーナリスト。NHK世界釣り紀行やフィッシングTVに出演した他、FMラジオで毎週生番組を担当。「だからロッドを抱えて旅に出る」「世界釣魚放浪記」「フライフィッシング・ハイ!」など著書多数。詳しくは「Anglers Gallery/世界釣り紀行」http://www.zamma.jpをどうぞ!

 

 

 

 

 

 

私がみずき君を推す理由 松山拓也

アウトドアプロデューサー 松山拓也

 

 

 

頼りになる男だ。

 

 

 

 

僕は冒険が好きだ、北海道も大好きだ。

 

魚釣りも本当に好きだし、北海道の源流のイワナ…と聞いたらぞくぞくしてくる。

 

 

静岡県袋井市に生まれた僕は、小さな頃から地元の川、太田川で釣りをしたり潜ったりして魚と親しんでいた。

 

フライを覚えて、人から聞く話。

 

雑誌で見る話…

 

北海道すごいらしい…

 

北海道行きたい…

 

しかも、北海道でも人が入りやすい沢は(本州の比じゃないけど)やっぱり釣り師が多くて、スレたり、抜かれちゃって厳しいみたい。

 

山を何時間も歩けば、いい魚が待っている…

 

それは、本州でも北海道でも一緒らしい。

 

「秘境」と言われる、誰もいない、大イワナがひそむ沢。

 

その流れを一目見てみたい。

 

 

でも、体力なんて人並み。

 

さらに、北海道、熊いるじゃん…、迷子になったらどうするの。

 

実際に行ってみて、レンタカーをでたらめに走らせて、目につく川でロッドを振ってみても、それなり…(確かに本州よりは比べ物にならないほど、いい感じだけど)

 

 

どうすんだ、こんな広い場所で。

 

広いは怖い。

 

どこでも行けるは、どこにも行けない。

 

どこでも魚が釣れる場所は、ポイントが分からずに途方に暮れる場所だ。

 

 

僕は、佐藤みずき君に出会わなければ「絶対行けなかった場所」がいくつもある。

 

彼に会わなかったら「絶対に釣れなかった魚」が何匹もいる。

 

 

札幌の僕の泊るススキノのホテルの前に、白いファミリーワゴンに乗ってやって来て、セイコーマートのレジの前に並んでいる彼。

 

北海道の原野の、谷川の最奥に分け入る彼は別人である。

 

行けばわかる。

 

 

彼は「頼りになる男」なのだ。

 

僕の人生の地図は、彼のおかげで広がった。

 

アウトドアは、どこに行くか?ではなく「誰と行くか?」だ。

 

山小屋での夜、冷えたビール缶を「プシュッ!」と開けてグビッとやる最高の瞬間の夜。「さぁ~て」と言いながら佐藤みずきが立ち上がったら、なんか美味いものを作ってくれる合図だ。僕はもう、みずき君の「さぁーて」だけでワクワクしてくる。

 

彼は親切で、優しく、強い。

 

アブがわんわん飛び交う源流に向かう道、

 

2秒後にヒグマが出てきてもおかしく無い林道で、僕は立ち止まりふと我に返る。

 

おいおい、大丈夫かよこんなトコ来ちゃって…

 

でも大丈夫なのだ、僕にはみずき君がいる。

 

「行きますよ~、こっちで~す」と聞こえる明るい声について行こう。

 

おりゃ!とボサボサしているヤブに突撃しよう。

 

 

僕が北海道の冒険に出かけるならば、迷わず彼を選ぶ。

 

なぜなら、佐藤みずき君は「頼りになる男」だからだ。

 

ps みずき君の「頼りになる男オーラ」は、大都会札幌のホテルに着くころには摩訶不思議にすわ~んと消えてしまうのが惜しいところだ…不思議だよなぁ…といつも思っている。でもさ、カッコつけてて山で頼りにならないオトコなんかより、1億倍カッチョイイじゃん!と僕は思うのだ。

 

2019年7月3日

 

 

松山 拓也

 

株式会社マツヤマデザイン・旅する会社代表。アウトドアプロデューサー。アウトドアの学校主催者。年間30~40日のキャンプ生活、過去30年間で人生の12分の1をテント泊で過ごす。キャンプ・登山・フライフィッシングを愛する。 デザイン会社代表の傍ら「炭焼きの杜 明ケ島キャンプ場」 プロデュース。NHK BSプレミアム「美の壷」出演、「キャンプ大事典」の監修執筆、など多方面に渡り活躍。

キャンプ大事典
松山拓也監修/成美堂出版

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